いまさらながら半村良

先日、実家に帰ったところ、リフォームするついでに要らんものを処分するとのこと。本もブックオフに持って行くから要るのがあったら持って行け、とか言われたので、さっそく物色してみた。

すると、懐かしいのが出てくる出てくる!
・「火吹き山の魔法使い」「暗黒城の魔術師」他のアドベンチャーゲームブック多数
司馬遼太郎池波正太郎柴田錬三郎他の歴史もの、山田風太郎の忍法帳シリーズ
ハインラインアシモフバロウズ他の海外SF
・「三国志」「伊賀の影丸」他の横山光輝の漫画
・その他いろいろ

全部残しておきたいところだが、却下されてしまった。仕方ないので、横山光輝三国志はキープしておいてもらい、特に思い入れのある半村良池波正太郎だけ持ち帰ることにした。

池波はとりあえず置いておいて、なんで半村良かというと、これが現在に至るまでの自分の興味の方向性に大きく影響しているからなのだ。その興味というのは、地名や氏姓の由来ということ。なぜこのような地名なのか、似た地名が他の地方にあるが関係有るのか、など。半村良の作品、特に初期の作品や伝説シリーズではそれが作品の鍵になっているのだ。

私が半村良の作品を初めて読んだのは、高校の図書室だった。図書委員だった私が、本の返却手続きをしているときにふと目に付いたのが「闇の中の系図」だった。何の系図だろうと思って何の気無しにパラパラめくってみると、なんと嘘つきの話なのである。朝廷を守るために嘘をつき続けてきた嘘のスペシャリスト集団「嘘部(うそべ)」。今読み返すとあらが目立つが、氏姓制度から歴史上の出来事に重ね合わせていくはったりに、当時は衝撃を受けた。

そのまま一気に嘘部シリーズ3巻を読み切り、次は隣にあった「石の血脈」に手を付けた。今度は、世界中の巨石文明と吸血鬼伝説に宗教、歴史上の出来事を組み合わせて大風呂敷を広げるやり方に、すっかり魅了されてしまった。

次が「妖星伝」だった。当時、歴史物にもはまっていた私には、まさにぴったりとはまる作品だった。もちろん、十二神将に準えた鬼道衆の設定が中二病っぽい心をくすぐったというのもある。そして、「石の血脈」と同じくエロチックなシーンが出てくることも忘れるわけにはいかない。健全な中高生男子にとって、微エロは何よりも重要な要素なのだ。

学校の図書館にはそれだけしかなかったので、その後は市立図書館や古本屋を回って片っ端から読んでいった。当時はブックオフのような大規模でオープンな古本屋はほとんど無かったので、神田や横浜の伊勢佐木町界隈などの古本屋を梯子して探し回ったものだ。「産霊山秘録」「黄金伝説」「英雄伝説」そして「太陽の世界」。角川映画の「戦国自衛隊」の原作が半村良だと知って読んでみたら、結末が全然違って驚いた。原作は最後のどんでん返しがSF仮想史の一発ネタとしてはかなり面白いのだが、映画ではそこを変えてしまったのがかなり残念な感じだ。

さらに読み進めると、半村良はSF伝奇ものだけではないことが分かってきた。直木賞を受賞した「雨やどり」はバーテンダーが主人公で、水商売の裏側を描いた人情話であり、SF色はまったく無い。作者自身のバーテンダー、広告代理店などの経験や下町暮らしを生かした人情話の作品群があり、SF伝奇と人情話という、一見繋がらない2系統の作品を多数書いている。

更に「岬一郎の抵抗」あたりからそれらが緩やかに融合し、伝奇、SF、歴史、人情などがない交ぜになった、何とも言えない半村ワールドが形成されていく様になる。

また、もう一つの魅力としては、登場人物の蘊蓄である。色々な知識を時にはくどいくらいに語り続ける。様々な分野の知識欲を満たしてくれるのは嬉しい。*1

平成に入ってからも多くの作品を執筆していただけに、2002年に亡くなってしまったのは本当に残念だった。

個々の作品については今後1つずつ書いていきたいが、特に思い出に残っている作品について一言ずつ。

晴れた空 (上) (祥伝社文庫)

晴れた空 (上) (祥伝社文庫)

東京大空襲で孤児となった少年達が「おかあさん」を中心に逞しく生きていく話。この季節になると読み返したくなる。NHKでドラマ化されていたのに見逃してしまった。DVD化されないかなぁ。
巨根伝説〈上〉 (ノン・ポシェット)

巨根伝説〈上〉 (ノン・ポシェット)

タイトルが官能小説まがいで、本屋で買うのが恥ずかしかった。母親にも誤解されて、変な本を買うなと叱られた。

*1:同じような理由で、新谷かおるの漫画も好きだったりする